変形性膝関節症(以下、膝OA)は、罹患数が非常に多く、読者の皆さんも臨床で接する機会の多い疾患ではないでしょうか。一般的な疾患であるために、特に人工関節置換樹後のリハビリについては各医療機関においてプロトコルが定められている場合が多く、リハビリを実施する担当者からすると、リハビリの品質を保ちやすい反面、「なぜこのようなプロトコルになっているのだろう?」「膝OAに関するエビデンスはどんなことが言われているのだろう?」というような疑問を持つ場合も多いと思います。そこで今回は、膝OAの歩容の特徴とリハビリテーションについて解説していきます!変形性膝関節症に関する基礎知識膝OAは世界での罹患者数が25,000万人を超え[Vos T, et al. 2012]、国内の推定罹患者数が3,000万人に達する[厚生労働省. 2008]とされる、国内外で最も一般的な整形外科疾患です。症状としては、軟骨の変性や滑膜の炎症によって膝に痛みが生じ、進行すると膝関節が顕著に変形します。発症初期には、平地の歩行には問題はなくても階段や坂道では膝に痛みが出たり、歩行時には問題はなくても正座をすると膝に痛みが出たり、と痛みの出方は様々です。膝OAが更に進行すると、関節の変形が大きくなり、O脚やX脚が目立つようになります。このように変形が進んだ段階になると、階段や坂道だけでなく平地の歩行においても痛みが出るようになります。特に高齢女性に多い疾患であり、日本人においてはO脚変形が起きる内側型膝OA(膝の内側の軟骨がすり減るパターン)が多いのが特徴です。図:O脚・X脚の定義〈レントゲン画像上のFTA(Femoral Tibial Angle;大腿脛骨角)で分類される〉※歩容の特徴を説明する際には、#1「歩行動作の基礎知識」で説明した用語を多用します。用語に不安のある方は、ぜひ振り返りながら読み進めてください。変形性膝関節症の歩容の特徴膝OAの歩行では、主に痛みのために歩行速度や歩幅が減少します。また、患側(痛みが強い側)と非患側(痛みがない/弱い側)で歩幅や単脚支持期に差が見られるケースも多い現象です。そして膝OAに特徴的な歩容といえば、Lateral ThrustとStiff Knee Gaitの2つが挙げられます。以下ではこの2つについて詳細に解説していきます。Lateral Thrust立脚期の初期(Initial Contact ~ Loading Response)に生じる急激な膝関節の外側への動揺のことを指します。O脚変形が進行してきた際に顕在化することが多いです。Lateral Thrustで問題になるのが痛みや膝への負担です。まず、急激な外側への動揺によりその瞬間に痛みが生じることがあります。痛みを恐れてそっと歩いたり、歩いて外出する頻度が減少することで、下肢の筋力が低下してどんどん膝が不安定になってしまうという悪循環に陥ってしまう場合があります。このLateral Thrustは,変形性膝関節症の増悪因子として研究対象になっている膝関節内反モーメント(膝関節をO脚方向に曲げる外力)と関連することが知られていて[Foroughi N, et al. 2010]、Lateral Thrustが出ている状態でたくさん歩いてしまうと、膝への負担が増し、膝OAが増悪しやすい可能性も報告されています[Iijima H, et al. 2019]。Stiff Knee Gait歩行の遊脚期に膝関節屈曲角度が減少した歩容のことを指します。膝OAだけでなく、脳性麻痺や脳卒中後片麻痺などの中枢神経疾患でも見られる歩容です。Stiff Knee Gaitで問題になるのが、エネルギー効率の低下です[Lewek MD, et al. 2012]。通常の歩行では、遊脚期に膝が自然と屈曲することで脚の振り出しに大きな力を使うことなくムチのように滑らかに脚が前に出ていきます。しかし、膝が曲がらない状態で脚を降り出そうとすると、まず足部と路面のクリアランスを確保するために体幹や骨盤に引き上げるような代償動作が入りますし、脚が棒状であるために慣性力が大きくなり降り出す際にかなり重さを感じることになります。このような状態では、歩行の実用性が下がってしまうのは目に見えていますよね。また、足部と路面のクリアランスが低下することで、つまづきのリスクが高まる点も問題点として見逃せない点です。変形性膝関節症に対するリハビリテーションまず、膝への負担を減らすために、肥満傾向がある患者様には減量介入が効果的です。痛みが強い患者様には高強度な筋力増強よりも低強度な有酸素運動を適応しやすく、減量介入と合わせて実施すると効果的です。膝OA患者では、膝を伸ばしたり安定させる役割を持つ大腿四頭筋の筋力低下が数多く報告されています[Palmieri-Smith RM, et al. 2010]。また膝からは離れた股関節周囲筋の筋力低下が報告されることも多く[Hinman RS, et al. 2010]、大腿四頭筋と合わせて、股関節伸展筋力・外転筋力・外旋筋力の筋力増強トレーニングの必要性が示されています。Lateral Thrustに対しては、上記筋力増強トレーニングにより膝関節の安定化を図る以外に、インソールによる介入も効果的です。特に初期の膝OA(KLグレードという膝OAの重症度評価でグレード1,2に該当)への介入効果が示されています[Shimada S, et al. 2006].内側型膝OAに対して、内側に向かって傾斜しているインソールを着用することで、O脚変形の方向に力がかかりにくくなる効果があります。Stiff Knee Gait に関しては、その原因が膝関節の可動域制限でない場合が多々あります。膝屈曲に伴う痛みを避けるための逃避的な歩行や、そういった膝を庇う歩行動作習慣の定着が原因である場合もあるため、そう言った場合には可動域拡大・筋力増強といった介入ではなく、痛みの出にくい歩行動作や動作の中での力の抜き方の指導など、所謂運動学習を目的にした介入が必要です。膝OAが高度に進行した場合には、多くの場合、人工膝関節置換術が適応されます。人工膝関節置換術後の歩容やリハビリについては別のコラムにまとめたいと思います。おわりに今回のコラムでは、整形外科疾患として一般的な膝OAについて、その歩容の特徴とリハビリテーションについて解説をしてみました。非常に一般的な疾患であるため、膝OAについて情報を得る機会は多いと思いますが、歩行に焦点を当てて情報をまとめましたので、改めて気づきが得られるポイントもあったのではないかと思います。本内容が皆様のお役に立つ情報になれば誠に幸いです。参考文献Vos T, et al., Years lived with disability (YLDs) for 1160 sequelae of 289 diseases and injuries 1990-2010: A systematic analysis for the global burden of disease study 2010, Lancet. 2012 Dec 15;380(9859):2163-96.厚生労働省, 介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について報告書, 2008.Foroughi N, Smith RM, Lange AK, Baker MK, Fiatarone Singh MA, Vanwanseele B, Dynamic alignment and its association with knee adduction moment in medial knee osteoarthritis. Knee. 2010 Jun;17(3):210-6.Iijima H, Aoyama T, Eguchi R, Takahashi M, Matsuda S, Effects of interaction between varus thrust and ambulatory physical activity on knee pain in individuals with knee osteoarthritis: an exploratory study with 12-month follow-up, Clin Rheumatol. 2019 Jun;38(6):1721-1729.Lewek MD, Osborn AJ, Wutzke CJ, The influence of mechanically and physiologically imposed stiff-knee gait patterns on the energy cost of walking, Arch Phys Med Rehabil. 2012 Jan;93(1):123-8.Palmieri-Smith RM, Thomas AC, Karvonen-Gutierrez C, Sowers MF, Isometric quadriceps strength in women with mild, moderate, and severe knee osteoarthritis, Am J Phys Med Rehabil. 2010 Jul;89(7):541-8.Hinman RS, Hunt MA, Creaby MW, Wrigley TV, McManus FJ, Bennell KL, Hip muscle weakness in individuals with medial knee osteoarthritis, Arthritis Care Res (Hoboken). 2010 Aug;62(8):1190-3. Shimada S, Kobayashi S, Wada M, Uchida K, Sasaki S, Kawahara H, Yayama T, Kitade I, Kamei K, Kubota M, Baba H, Effects of disease severity on response to lateral wedged shoe insole for medial compartment knee osteoarthritis, Arch Phys Med Rehabil. 2006 Nov;87(11):1436-41.