パーキンソン病は指定難病にあたる神経・筋疾患です。高齢化にともなってパーキンソン病も臨床で関わる機会も少なくないのではないでしょうか。「ゆるやかに歩行能力が低下することは認識しているけど、具体的に何をしたらいいのか分からない」「歩行の維持は生活の質(QoL)に重要なのは分かるけど、なかなか課題の共有がむずかしい」というような課題を持つ場合も多いと思います。そこで今回は、パーキンソン病の歩容の特徴とリハビリテーションについて解説していきます!パーキンソン病とはパーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで多い神経変性疾患といわれています。神経変性疾患とは、神経細胞が進行性に変性する疾患を指します。パーキンソン病ではドーパミン神経にかかわる中脳の黒質とよばれる領域が変性することを原因として、種々の運動症状をきたす病気と考えられていますが、発生のメカニズムは未だ明らかにはなっていません。パーキンソン病の疫学平均発症年齢は60~65歳前後で、発病率は約1万人に1人といわれています。年齢に伴い、かかる人が増えており、65歳以上でみると人口100人に1人、約1%がパーキンソン病の診断を受けると推定されています。運動でみられる初見特徴的な所見として以下が挙げられます。無動運動の開始が遅れ、運動自体が少なくなり、所作が緩慢になる様子・現象のこと。すばやいグーパーを繰り返すような動作などで緩慢な様子が評価されます振戦主に安静時に規則的に震える。初発時には一側性(左右どちらか)から症状が出現する。強剛観察者が関節を動かすさいに抵抗が生じる(筋の緊張に由来)このように複合的な影響で歩行がむずかしくなることが考えられています。また、ゆるやかな進行を伴う点からも、運動の目的としては、現在の運動機能の維持や二次的な合併症の予防といった包括的な視点から対処を検討することが重要になります(4)。歩行に関する特徴以上のような症状とあわせて歩行の現象的な特徴として以下のような現象が用語として存在しています。1. Freezing of Gait|すくみ足歩き始めや、方向転換などのさいに一歩目が出にくくなることで、足がすくむような現象がみられることを指します。英語圏では、Freezing of gaitやFrozen gaitと表現されます。まるで「足がカチコチに凍った」かのように出てこない、という意味合いでの表現がなされています。FOGと省略して記述されることも。2. Festination gait|加速歩行1. と関連して、歩き始めると途中で止まることが難しくなる現象を指します。3. Small steped gait|小刻み歩行小股で片足立ちが短い歩き方を指します。一歩目が出にくいことと関連して、片方の足に体重を十分に乗せられずに小刻みになるような所見になります。これらの特徴的な歩行は、「タイルをまたぐように歩く」であったり、「メトロノーム音」にあわせるなど、視覚・聴覚などの情報から解除されることが知られています。動画でみる以下の動画は、どのような動きになるかデモンストレーションを行っている動画です。医療従事者の方は、学生時代に一度はみたことがある方も多いのではないでしょうか?%3Ciframe%20width%3D%22960%22%20height%3D%22540%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Fyhj1PktNA1c%3Fcontrols%3D0%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E長期的な歩行変化近年は、手軽にセンサーデバイスを用いることができるようになり、センサーが研究に用いられた論文数も増加傾向のようです。より長期のフォローアップによるパーキンソン病特有の歩行変化も、捉えられてきています。実際に、6年間の継続的な歩行計測をパーキンソン病の群とコントロール群を比較することにより、パーキンソン病で特に変化したものとして、左右のストライド時間・遊脚期時間・歩隔の3つのパラメータで変動性(sdのrms)が増加、遊脚期時間の非対称性は減少したとが報告されています。一方、共通して加齢で変化するものとしては、歩行速度の低下・遊脚期時間の短縮・歩隔の増加が挙げられ、パーキンソン病ではより変化が大きかったとも論じられています[Wilson J, et al. 2020]。このように継続的な経過を把握していくことで、標準的なリハビリテーションを実施するために指針すべきもの何かが、より明確にできるかもしれません。図:初回をゼロ(No cahnge)としたときの6年間(72か月)の歩行特性の変化 [出典:文献3 ) より(最終閲覧:2022/12/13)]リハビリテーションについて以上のような特徴から、ゆるやかに歩行が困難になっていくのですが、少しでも暮らしやすくするための工夫について以下に、まとめていきます。1. 筋肉の柔軟性を保つ日常で同じ姿勢でいるなど、動きが少ないことで筋肉の柔軟性が低下して、関節の可動性が少なることが課題のひとつとして挙げられます。一般的な日常生活でも座った姿勢での作業などが多いと、ある関節が曲がったままの状態での生活頻度が増えてしまったりしますよね。適度にストレッチを、特に普段の何気ない生活ではあまり伸びない場所というのを意識してみることもよいかもしれません。簡単にはじめられるものとしては、うつ伏せ姿勢になるだけでも腹筋のストレッチになります。2. 人とつながるこれがリハビリ?とおもうかもしれませんが、英国を中心にコミュニティベースドリハビリテーションという考え方も広まりつつあります。社会的交流を維持できるように自治体などでつながるきっかけ作りを行うことで、習慣的な生活活動を維持するメリットなどもあります。麻雀でもなんでも構いません、好きなことができる場を探しましょう!3. 生活環境の工夫 座面が低かったりすると、立ち上がる勢いでふらつきやすくなることもあるかと思います。よく腰掛ける椅子やベッドはスッと立ち上がりやすい高さに調整することで、少ない労力で暮らしやすくするポイントになったりします。4. 呼吸のトレーニング猫背や、運動不足になると肺を広げる横隔膜も運動が少なくなり、呼吸に影響を受けます。肩甲骨周辺のストレッチや、発声練習などがあります。カラオケが好きな人はぜひ継続的に懐メロを歌いましょう。おわりに今回のコラムでは、総論的にざっくりと神経変性疾患のパーキンソン病についてまとめてみました。巻末で紹介した研究結果からはパーキンソン病特有の大きく変化したパラメータなども見られつつあり、継続的な計測によって変化を見ていくことで提案できる引き出しも増えていくのではないでしょうか?本内容が皆様のお役に立つ情報になれば誠に幸いです。参考文献日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018,医学書院,2018.di Biase L, Di Santo A, Caminiti ML, De Liso A, Shah SA, Ricci L, Di Lazzaro V. Gait Analysis in Parkinson’s Disease: An Overview of the Most Accurate Markers for Diagnosis and Symptoms Monitoring. Sensors (Basel). 2020 Jun 22;20(12):3529.Wilson J, Alcock L, Yarnall AJ, Lord S, Lawson RA, Morris R, Taylor JP, Burn DJ, Rochester L, Galna B. Gait Progression Over 6 Years in Parkinson’s Disease: Effects of Age, Medication, and Pathology. Front Aging Neurosci. 2020 Oct 15;12:577435.編集:吉尾雅春,監修:奈良勲:標準理学療法学 専門分野 運動療法学各論,第3版,医学書院,2010.p150-160.