変形性股関節症(以下、股OA)は、臨床で接する機会の多い疾患です。一般的な疾患であるために、各医療機関においてリハビリプロトコルが定められている場合もあるでしょう。同じ変形性関節症として、変形性膝関節症(以下、膝OA)がより一般的であるため、「症状やリハビリについて膝OAとの違いは何だろう?」「股OAに関するエビデンスはどんなことが言われているのだろう?」というような疑問を持つ場合も多いと思います。そこで今回は、股OAの歩容の特徴とリハビリテーションについて解説していきます!変形性股関節症に関する基礎知識股OAとは股関節に起こる変形性関節症です。変形性関節症とは、軟骨の変性や滑膜の炎症によって関節に痛みが生じる疾患で、進行すると関節が顕著に変形します。関節の変形は、加齢によって全身のどの関節にも発生しうるものですが、体重がかかる下肢関節は変形性関節症の頻発部位です。股OAは膝OAと同様に女性に多い疾患ですが、膝OAは高齢者に多い疾患であるのに対して、股OAは比較的若い方にも発生しやすい疾患です。それは、加齢により一次性のみならず、生まれつきの股関節の脱臼(先天性股関節脱臼)や股関節の発育が悪いこと(臼蓋形成不全)などが原因で発症する二次性の股OAが多く存在するからです。股OAの場合の変形は、膝OAのO脚変形のように外観には現れにくいですが、レントゲン画像上では大腿骨頭が臼蓋に食い込むような変形をしています。出典:日本整形外科学会「変形性股関節症」(最終閲覧:2022/12/9)症状としては、股関節付近の痛みや違和感が発生します。初期は、主に歩行や立ち座りなどの動作時に痛みが生じます。股OAが進行すると、歩行時には常に痛みを感じるようになり、椅子に座っている時や就寝時など安静時にも痛みが生じます。痛みと共に、関節変形の進行により股関節の可動域が狭くなることで、入浴、更衣、爪切りなどの日常生活動作が制限され、QOLの低下をきたします。※歩容の特徴を説明する際には、#1歩行動作の基礎知識で説明した用語を多用します。用語に不安のある方は、ぜひ振り返りながら読み進めてください。変形性股関節症の歩容の特徴股OAの歩行では、主に痛みのために歩行速度や歩幅が減少します。また、患側(痛みが強い側)と非患側(痛みがない/弱い側)で歩幅や単脚支持期に差が見られるケースも多いです。また、股OAの歩行では、痛みや可動域制限のために、患側の脚を引きずるように歩行することが多いため、患側を持ち上げるような代償運動として、体幹を非患側に傾けたり、体幹を左右に揺らしながら歩行する特徴があります。股関節周囲の筋力低下により、骨盤は非患側に傾斜するトレンデレンブルグ歩行を呈することも少なくありません。膝OAの歩行と比較して体幹による代償動作が多く現れることが特徴的です。股OAは膝OAと同様に関節にかかる力学的な負荷が発症や進行の要因になると考えられていますが、膝OAにおける膝関節内反モーメントのように明確にリスクファクターとして着目されている力学的指標がありませんでした[Diamond LE, et al. 2018]。しかし近年では、一歩の中でかかる関節負荷に、一日の活動量(歩数)を乗じた股関節累積負荷(立脚期の股関節内・外転モーメント積分値と 1 日の歩数の積)リスクファクターとして注目されています。一歩の中でかかる関節負荷は大きくなくても、 一日の活動量が多ければ関節負荷の総量は増大するという考え方です。実際に、股関節累積負荷の増大がレントゲン画像上の股OAの進行と関連したという研究報告があります[Tateuchi H et al. 2017]。股関節累積荷を変化させるためには、適切な歩行動作指導とともに、日常活動量のコントロールが重要になるため、股OAの治療として、活動量が過剰な患者様に対しては、日常生活への介入も有効な一手段になるかもしれません。変形性股関節症に対するリハビリテーション股OAは膝OAと違い、疾患進行予防に向けたリハビリのターゲッ トが少し不明確です。それは前述の力学的負荷の話題のように、 リハビリで修正可能な要因がほとんど発見されていないからです。ここでは、臨床でよく実施される内容と、日常生活を含めた介入について説明します。リラクゼーションジグリングという運動があります。椅子に浅めに腰掛けて、股関節と膝関節を直角に曲げ、つま先を床につけて踵を上下動させる運動です。片脚ずつで行っても両脚で行っても問題ありません。効果は諸説ありますが、下肢の血流改善や痛みが強い場合のリラクゼーション効果もあるようです。筋力トレーニング股関節の安定化を図るために、股関節周囲の屈曲・伸展・外転筋力を満遍なく鍛えるトレーニングがよく実施されます。軽い負荷をかける場合には、仰向け・うつ伏せ・横向きに寝転んで、脚を上に持ち上げる運動が実施されます。少し負荷を増す場合にはゴムチューブを両脚の大腿部に引っ掛けて同様の運動をすると良いでしょう。日常生活への介入まず、股関節への負担を減らすために、肥満傾向がある患者様には減量介入が効果的です。また、股関節の深い屈曲は関節への負担の観点から避けるべきです。畳ではなく椅子の生活にするなど、生活環境を見直すような介入も必要です。股OAは痛みや可動域制限による日常生活動作の制限が多い問題があります。その問題を解決するために、ソックスエイドや回転式爪切りなどの補助具を有効利用すると良いでしょう。股OAが高度に進行した場合には、多くの場合、人工股関節置換術が適応されます。人工股関節置換術後の歩容やリハビリについては別のコラムにまとめたいと思います。おわりに今回のコラムでは、整形外科疾患として一般的な股OAについて、その歩容の特徴とリハビリテーションについて解説をしました。変形性関節症としてより一般的な膝OAとの対比を意識してまとめましたので、お互いの特徴をより理解しやすくなっていると思います。本内容が皆様のお役に立つ情報になれば誠に幸いです。参考文献Diamond LE, Allison K, Dobson F, Hall M, Hip joint moments during walking in people with hip osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis, Osteoarthritis Cartilage. 2018 Nov;26(11):1415-1424.Tateuchi H, Koyama Y, Akiyama H, Goto K, So K, Kuroda Y, Ichihashi N, Daily cumulative hip moment is associated with radiographic progression of secondary hip osteoarthritis, Osteoarthritis Cartilage. 2017 Aug;25(8):1291-1298.